恩師との出会い

私が大きな影響を受けた人は、高校一年生の時に通い始めた英語教室の先生だった。その先生からは、英語はもちろんだが、英語を通して物の見方や考え方などを教わった。私の人生は先生との出会いによって変わったと言っても良い。

私は、中学生の時から英語が苦手で、それは高校に行っても変わらなかった。それを心配した母が、この塾はどうかと言ってくれたのだった。母は、いつも仕事で往き来するバスの中からその小さな塾が目に入り、ずっと気になっていたという。何かとても不思議な巡り合わせだった。

その塾は先生一人で運営されており、開塾したばかりで生徒はまだ少なかった。私は、先生の思考の鋭さに感動し、自分もそのような力を得たいと貪欲に勉強した。先生も私の熱意に惜しみなく時間を割いてくれた。

忘れられない出来事がある。私は、通常の授業が終わった後に必ず質問をしたのだが、その日は白熱して午前〇時を回ってしまったことがあった。母が心配して塾に電話を掛けてきたが、その時も時間を忘れて先生と勉強していた最中だった。先生は、母に勉強内容を説明して、夢中になり時間を忘れてしまっていたと申し訳なさそうに話していた。その後も、塾の日の帰りはいつも遅かった。

塾には大学に入るまで毎週のように通い、自分を研鑽し続けた。授業が終わり、先生が塾を閉め帰宅する時もいっしょに歩いて帰り、その途中もずっと様々な話をしながら帰ったものだった。そのような帰宅途中の話ですら、私にとっては常に真剣勝負で何か得ようと必死だった。そして、先生は私の生涯の師として、社会人になってからも帰郷した際には、時折挨拶に行ったものだった。

勉強に疲れ、夜遅く帰宅途中の橋から眺めた海は、深い暗さに覆われており、昼間とは全く違った底知れぬ大きさを感じさせていた。

一九八七年二月