志望校への下見

受験日がかなり近づいたある日、私と同じ公立高校を受験する友人と二人で下見に行った。固定電話しかないその当時、待ち合わせ場所などを確認するために友達の家に電話をかけることはとても緊張することだった。親が出たときにきちんと話せるだろうかと覚悟をしてダイヤルを回したものだった。いまでは考えられないことだった。

その日は日曜日だっただろうか、春の訪れを感じさせる爽やかな日だった。バスに乗りその高校に着くまでの時間を計ったり、高校の周囲の道を歩いてみたりした。その当時、高校側が見学の日を設けたりすることがなかったので校舎に入ったりすることはできなかった。体育館の近くの道路を歩いていると部活の活気ある声が響いて聞こえてきた。この高校に入ることができたらどんなにすばらしいことだろうと心の底から思った。

その高校に入れるか全く分からないのに、実際に行ってみてあこがれを持つというのは精神的に辛いものがあった。入ってもいない高校に行って、こんな場所に毎日通えたらどんなにうれしいだろうか、と想像することは合格のボーダーラインにすらいるかどうか分からない私にはとても苦しいものだった。

その後、友人とどんな話をしたのか、どのように帰ったのか全く覚えていない。ただ、爽やかな午前中の雰囲気と共に体育館から漏れ聞こえてきた、掛け声のような音や靴が床と擦れるキュッ、キュッという音、ジャンプして着地したようなダンッ、ダンッという音が響いていた事だけが耳に残っている。

一九八六年三月