ひと段落した後、母と私は、母が現役時代からよく通っていた喫茶店で今後について話をした。ふと、これまで一番良い思いをしたのは誰だろうか、という話になった時、母と私は息を呑んだ。
父の収入や金銭感覚では父一人食べて行く事がやっとだったのが、今は住みやすい家に住み、車も持てた。母は死の淵から生還したが、もしそうでなかったならば母の蓄えた貯蓄の半分が自動的に父のものとなっていた。そして、今、実家から離れた場所で自分は何の心配も無く、趣味の釣りを好きなだけできる一人暮らしをしようとしていた。
母と私は、何かが大きく間違っていると思った。母の目の行き届かない状態になったら、父は何を仕出かすか分かったものではなかった。特にお金に関することには危なっかしく、母だけはその恐ろしさを知っていた。私は、父が「財布の中に常にお金が入っていないと不安で不安で仕方がない」と言っていたことを思い出していた。
「やめよう。父の顔など二度と見たくないが、自分の目の届かないところで問題を起こされ、子供達に迷惑がかかるようなことがあれば自分は死んでも死に切れない」と母は言った。そして、急遽全てを取りやめることにした。
一連の流れを思い返してみると、驚くことにどう転ぶにせよ父が利益を得るようになっていた。父は本能的にそのように振舞ってきたのだろうか。外堀を埋められていたのは母と私の方だった。