早朝の困惑

私は姉の家と実家を行き来していたが、ある時、父は「この間まで仲良くやっていたのに何で急にへそを曲げてしまったのだろうか。自分が何か悪いことでも言ってしまったのだろうか」と母が未だ家に帰って来ないことを不思議に思って言った。

父はそもそも何も理解していなかったのだ。母が倒れたあの夜、父の態度が母にどれ程の衝撃を与えたのか分からないのだ。私はその言葉に深い失望を感じながら、その日は実家に泊まった。

次の日の朝五時過ぎ、俄かには信じられないことが起きた。

父が居間に入って来たかと思うと「なんと可愛そうなことか、どんなにかこの家に戻ってきたいだろうか。私の姉に頼らなければならないほど身体が衰弱しているのだろうか。何もしてやれない自分が不甲斐なくて情けない」と大泣きして言った。

私は父が発狂したのかと真剣に焦り、救急車を呼ぶ必要があるかもしれないと脂汗が出た。

母が必死で働いて手に入れたこの家に母が帰れないのは、他ならぬ父のせいであり、父の言葉は私の心に全く響かなかった。

のちに、父は私の姉にも泣いて電話をしたり、知り合いの奥さんにも母が帰ってこないと泣いて訴えていたことを知った。私は直感的に、幼児が構って貰いたくて必死に泣くのと同じで、自分に同情の目を向けさせるための本能的な行動だと思った。

このままではまるで母が悪いかのように周囲には映ってしまう。私は得体の知れない恐怖を感じた。