時の世の中は、高度経済成長の直中にあった。貧しい片田舎ではそんな恩恵も限られていたが、それでも少しずつ給料は増え、昨年よりは今年、今年よりは来年の方が良いという時代の流れに乗っていた。
そんなある時、寝耳に水の出来事があった。父が母に突然「土地を買ってきた」と言ったのだ。そんな大変なことを初めて聞かされた母の驚きはどれ程大きかったであろうか。日用品でも買うかのように、何の相談も無く土地を買う父の神経に言葉を失った。それも不動産屋に薦められるままに契約してしまったようだった。
その土地を見に行ってみると、袋小路になっている上、駐車場の位置が不便であまり良くない物件だった。父は会社のトラックで通勤していたため、駐車場の利便性は重要であったが、その様なことにすら気が回らない有り様だった。
その時代ではクーリングオフ制度も整備されておらず、契約してしまった以上はそのまま進むしかなかった。他に契約を取り消す良い方法があったのかもしれないが、当時の母にはどうすることもできず、ひとり金策に奔走するしかなかった。
向かい風は強まるばかりだった。