梅雨時のひと時

梅雨時だったろうか、母と姉が故郷から東京に遊びに来た事があった。私が東京で一人暮らしを始めたことで、来やすくなったからでもあった。

母と姉は、誰も自分達を知らない東京という場所で初めてパチンコをしてみようと話し合っていたようだった。地方の田舎では、世間は狭く人の目があり、そのような場所に出入りし易い雰囲気ではなかった。

母と姉は、池袋サンシャインの前にあるビジネスホテルに宿泊することになっていた。母と姉が到着してホテルで一息ついた後、母はホテルでゆっくりとし、私と姉は近くのビリヤード場に行った。私は東京に来て覚えたての場所に姉を案内しカクテルを飲みながらビリヤードを楽しんだ。私はさも知っているかのように得意気だった。

夕方になると私と母、姉の三人で早速、サンシャインの近くにあるパチンコ屋に入ってみた。私はパチンコの経験はなく、姉と共に夢中になってやった。母は、私と姉に次々と玉を買って渡してくれていたが、私たちの世話ばかりで自分ではほとんどやらなかった。今思えば、母もやりたかっただろうに思う。私がもっと気を使えていたら良かったと幾度となく思った。

パチンコの結果は、私はすべての玉を飲まれてしまったが、姉は三人分の元手を大きく上回るくらい勝った。その後、興奮冷めやらぬ間に近くのレストランで夕食を取ることになった。私は、食事をしながら東京での暮らしなど興奮気味に話したものだった。

その後、どのように過ごしたか覚えていない。気が付けば深夜近くになっており、私はホテルに滞在する予定ではなかったのだが、こっそりと母たちの部屋に泊まった。ホテルの窓から外を見ると昼間の騒々しさが嘘のように静かになっていた。深夜にも関わらず街灯に照らされた街は明るかった。

翌朝、少し雨がふっている午前中に母と姉は実家に帰った。帰る途中、私が母に文房具が必要だという話をしていたら、お金をいくらか渡してくれ、これで買っておいでと言ってくれた。

その時の私はまだ十九歳で、家族のために気を使えるようになるには若過ぎる年齢だった。自分ばかりが夢中になって楽しんでいた姿を遠くから眺めているような幻想的な記憶しか残っていない。複雑な感情と共に未熟だった頃を懐かしむ。

一九九〇年六月