その後、「タカヤス」という言葉について触れられることはなかった。私もその事は全く忘れており、日々病室で回復につとめていた。病室に移って二日経つが食欲は無かった。
毎回食事は運ばれて来たが、全く食べれなかった。和食などあるわけもなく、大きなお皿に大量のスクランブルエッグがのせられていたり、大味のスープやパンだった。唯一食べることが出来たのはアイスクリームだけだった。
来英してからの入院経験は二回目なので、食事が辛い事は始めから分かっていた。普段であれば問題なく食べている食事でも、入院するような体調の時には全く無理だった。家族におかゆ、卵焼き、おろし醤油などを持ってきてもらい、何とか食べた。
日本で入院した時、おかゆの固さは五段階あり、今思えば信じられないほど行き届いた食事だった。こちらでは、まだやわらかい物しか食べられない人用に「ソフトメニュー」があった。例えば、茹でただけのパスタでソースは無く、塩とコショーをかけて食べるのだが、私にとっては、全く「ソフト」ではなかった。
体調の回復には良い食事と精神的に安定できる場所が不可欠である。食欲が戻ってくることを毎日願っていた。
二〇十五年八月