今生の別れ

帰国は数年に一度だった。出張の場合がほとんどで滞在期間も一週間程度と短かく、父と会う機会も随分と減った。

英国で多忙な日々を過ごしているうちに、私は心臓疾患を患い緊急手術が必要となってしまった。二〇一五年の事だった。高齢の両親を安心させたいと思い、少し無理があったが翌年一時帰国した。その時、父はすでに認知症が進行していたため、私が大病を患ったことを父に伏せていた。

私が実家に到着した日、姉の家族が来ており、父もケアハウスから来て皆が一堂に会していた。その夜、仕出し屋からご馳走を取って食事会も開かれた。その時の父は、認知症であるとは分からない普通の状態だった。皆が揃い夕食を食べるという環境が良かったのだろう。父が「こうして皆、大きな怪我や病気もなく元気で集まれるということは幸せなことだ」と話していた。

実家での滞在は二泊と短かったが、とても有意義な時間を過ごせた。実家の玄関を出る時、父は「これが今生の別れというわけではないにしても、次また会えるのはいつになるか分からない、とにかく体に気を付けて元気で」と言った。だが、この時が本当に今生の別れとなってしまった。父との記憶はここで止まったままとなっている。

あの時の賑やかな食事会が遥か遠い昔の事のように思い出される。

二〇十六年四月