ヤングマスター

ヤングマスターとはジャッキーチェンの映画のタイトルである。私は小学生の高学年の頃からジャッキーチェンの熱烈なファンとなっていた。その曲芸的な身のこなしやカンフーアクションの虜になっていた。

その日は部活のない土曜日だった。中学に入り友達となった一人のクラスメイトと、私の家のテレビでヤングマスターをいっしょに見る約束をした。中学生になり友達を家に呼ぶのはその時が初めてだった。インターネットなど無く、新聞で番組表を見て、その時間が来ることを楽しみに待っているような時代だった。

母が用意してくれたお菓子を食べながらその映画を楽しんだ後は、私の部屋に行き、ラジカセで音楽やラジオを聴いたりした。また、プラモデルで遊んでみたり、おもちゃの刀でジャッキーチェンの真似事をして遊んだりもした。

私の部屋は二階で、階段を上がり右側の部屋だった。左側は以前に増築した部屋で姉が使っていた。私の部屋は襖で仕切られた片方の部屋だった。もう一方の部屋にはミシンやオルガンなどが置いてあり、押し入れには来客用の布団がしまってあった。

私の部屋からの眺めは良く、目の前には松林があり、遠くには山脈が広がっていた。もう一方の部屋の窓からは、西日がいつも差し込んでおり日当たりが良かった。その眩しいほどの夕日が差し込んだ部屋には、時間の流れが止まったかのような静寂が広がっていた。

叶わぬ願いであるが、あの夕日の色や時が止まったかのような雰囲気をもう一度味わいたい。

一九八三年四月