自宅浪人生活が始まった。この期間は私の人生の中でも特殊だった。社会のどこにも所属すること無く、ただひたすら自分の部屋で時間の許す限り勉強をした。
受験の後、自分は何をすべきか、何をやりたいのか、と堂々巡りのような考えをどれだけ繰り返しただろうか。そのうちに自分の本当にやりたいことは数学そのものではないのか、という考えに行き着いた。それまでは社会に出た時に何が良いのか、という視点ばかりだった。そうではない、理由など無く興味があるからただそれをやる、それで良いではないか、という至極単純な結論に辿り着いた。
三年生の時に受験した学部は工学部だったが、自分が本当に進むべき道は理学部数学科だと気が付いた時、受験に失敗してよかったと思えた。目標が定まった時の私は強く、無尽蔵とも思える底力でその道に進み始めた。こうして、翌年の受験を目指し、自宅で一人勉強する日々が始まった。
このような当たり前の事に気が付くためにどれだけの時間を費やしただろうか。今思い返すと、現役高校生の時には日常に追われており、立ち止まること自体が難しかった。学校に行く必要も無くなり、時間的にとても余裕のある状態になって初めて立ち止まることができたのだと思う。
まだ未熟で粗削りな十代にそのような時を過ごせたことが、自宅浪人をして最も良かった事だった、と今になって思う。今の自分があるのはそんな経験もあったからなのだろう。
一九八九年四月