私の高校では、入学後しばらくして一週間、昼休みや放課後に三年生が一年生に応援歌を教えるという伝統があった。
その伝統はユニークで、旧制高校の時は男子校であったこともあり非常に厳しいものだった。男子も女子も関係なく、独特の振り付けを覚えさせられ大声で歌わされた。三年生のドスの聞いた声で「声がちっさい!」と怒鳴られながら歌い続けさせられた。クラスの中には、振り付けが覚えられなかったりすると後ろの方に連れていかれ、机の上に立たされてセミの鳴きまねを大声でやらされる者もいた。今の時代では到底世の中に受け入れられないような精神的虐待かもしれないが、その当時は普通のことだった。
一週間経つと声は枯れてかなり疲弊した。県下一の高校なのにこんなに柄が悪いのかと最初は思ったが、最終日になると指導した三年生達が自己紹介や色々な話をしてくれたりした。皆、優秀で本当に心優しい人達だということをその時に知った。全く予備知識のなかった私は面食らったが、今思えば毎年恒例となっている伝統行事で三年生の演技の入った茶番であり、楽しい出来事だった。
私の高校では、この応援歌がアイデンティティーのようになっており、校歌の方は全く覚えていないし、歌うこともほとんどなかったように思う。新入生の歓迎会や卒業生の壮行会などあらゆる行事にこの応援歌が歌われた。
今でも振り付けも歌詞もよく覚えている。
一九八六年四月