一九九〇年四月

一九九〇年四月は、一人暮らしをしながら大学に通う日々が始まった特別な時だった。私の下宿先は東京二十三区ではあったが、都心から離れており少しは静かな雰囲気が残っていた。そんな場所から毎日、電車を一本乗り継いで通学した。大学の周辺は近代的な建物ばかりで、多くの人が慌ただしく往き来しており、田舎で育った私にはすべてが新鮮で刺激的だった。

大学初日は、オリエンテーションで基本的な説明を聞いた後、学内の指定された場所に行き教科書を購入した。校内は、様々なサークルが新入生の勧誘でとても賑やかだった。夕方になると、多くのサークルは新入生を集めて飲み会を開いており、私も誘われるままに行ってみたりした。

新入生歓迎の雰囲気は二週間くらい続いたが、そんな日々も次第に収まってきた頃、私はクラシックギターのサークルに何となく入っていた。このサークルには、気の合う仲間が何人か居て、私は居心地が良くそのまま入会していた。ギターに興味があったわけではなかったが、クラシックギターの音色はとても美しく興味を惹かれた。

四月も終わる頃になると、お祭り騒ぎの雰囲気はすっかり消え、下宿と大学を往き来する日々となっていた。大学近辺の街は活気があり目新しかった一方で、私の目にはどこか冷たく殺伐とした光景に映っていた。都心から下宿の部屋に戻ると、そこは数十年前にタイムスリップでもしたかのような別世界の雰囲気だった。そんな不思議な空間の中で、自由であることを実感していた。

上京した目的は数学を修める事であり、これからの四年間すべてをその目的のために費やそうと自分に誓った。部屋から見える小さな公園のブランコを眺めながら、これから何が起こるのだろうかと不安と高揚感を同時に感じたものだった。

一九九〇年四月