英国旅行

私が駐在で渡英した翌年、両親を滞在期間一か月の英国旅行に招待した。両親は海外に行った経験は無く、英国に行く事など想像もつかなかったに違いない。私は空港に出迎えに行き、両親との再会を喜んだ。家に向かう途中、父は車窓からの景色を見ながら「日本とは違い国が豊かなんだね」と驚いていた。

両親が旅行に来た時は、英国で最高の季節である初夏だった。夜十時頃まで明るく、それ以降も空には微かな明るさが残る。両親はそんな夜空を珍しそうに眺めていた。

私達は、フランスやEastbourneにも一泊旅行に行った。土日にはCotswoldsにドライブに行き、様々な街並みを見た。こんな機会はもうないだろうと思い、色々な場所に行ったが、七〇歳を超えた両親の体には少し堪えてしまったかもしれない。しかも、その年の夏は近年でもまれに見る猛暑だったので尚更だった。

フランスではルーブル美術館に行った。私達は幼児連れのため美術館で長時間過ごす事が難しかったので、両親だけで見学してもらった。母は油絵をやっており、この機会を楽しみにしていた。父は美術に興味が無かったが「母一人で見るのはつまらないだろうから付き合ってあげないと」と言っていた。

ドライブの時、父はいつも助手席に座っており、私は父と多くの話をした。父の現役時代の話をその時に初めて聞いた。取引先の社長に贈答品を会社として渡していたが、父は必ずナンバー2にもこっそりと贈り物をしていたという。小規模の商店やスーパーでは、社長の息子がナンバー2であることが多く、いずれその息子が社長になるのだから息子も大切にすべきだ、と話していた。その考えは正しく、のちの商いも上手く行ったと言っていた。そのような経験から父は私に「ナンバー2を大切にする事」と話してくれた。

帰国前日はEastbourneで一泊した。両親の部屋は海が見える眺めのよい部屋だった。帰国当日、English Breakfastを食べた後、浜辺を散歩してからホテルをチェックアウトした。帰りのフライトは十九時の便だったため、近辺をドライブしながら空港に向かった。途中、車窓から釣り人がいる防波堤が見えた。車を近くに止め、父と私はその防波堤まで釣りの様子を見に行った。良い型の魚が釣り上げられているのを見て、私は父に釣りをしたいのではと聞くと、父は「釣れているところを見れたから満足だよ」と話した。その後、昼食は、防波堤近くのイタリア料理店でパスタを食べた。アルデンテの味しいパスタだったが、日本から来た両親の口には合わなかったかもしれない。

レストランを後にして私達は空港に向かった。空港でチェックインをした後、私達は別れの挨拶をし、両親は満面の笑みで手を振りながら入国審査ゲートへと入って行った。海外とは無縁で苦労尽くめだった両親に英国旅行をプレゼントできた事はせめてもの親孝行になったと思っている。

二〇〇五年夏、英国