東京で一人暮らしをするようになると、時折、両親が食べ物や日常品などを送ってくれた。荷物には手紙がいつも入っていた。当時は携帯電話やメールなどは何一つなかった時代で、連絡手段は電話か手紙だけだった。
父からの手紙は一度だけだった。缶詰などの荷物に入っていたその手紙には「何かと大変なことも多いだろうが体に気を付けて頑張れ。目、耳、歯、鼻を大切にすること」という事が書かれてあった。父らしい手紙で、文字も父が日記で書いている字体だった。その手紙はその後もずっと取り置いてある。父なりに私を心配してくれていることが良く伝わった。
そんな手紙や文字を見ることはもう無いのかと思うと、今まで考えたこともなかった感情が心に湧き出てくる。現在は、あらゆるものが電子媒体となっているから手紙を書くことはほとんどない。しかし、手で書いた文字には人となりが現れ、内容だけではない何かを残してくれる。
あの手紙を見ると、あの時が世相と共に懐かしく思い出される。
一九九〇年代前半
