就職する一年前に運転免許証を取得した。免許証を取得しても東京で一人暮らしをしている間は、車を運転することが無かった。運転は実家に帰った時、父に助手席に乗ってもらい練習した。
長期休暇の時、実家で毎日のように父から運転を習った。父は、教習所では教えない実践的な知識を教えてくれた。雪道で滑った時のアクセルの踏み方やブレーキのかけ方など、長年雪国で運転し続けていなければ分からないことを数多く教えてくれた。時に「そうではない、それでは危ない」と繰り返し言われ、イライラしてしまったことが何度もあった。今でも申し訳なく思っている。
父が運転に関して繰り返し言っていたことがある。「事故を起こせば、それまでの幸せが一瞬で全て無くなってしまう」、「若い頃というのは、イライラすると車で飛ばして憂さ晴らしをしたくなる。それは本当に危険な事で絶対やってはいけない」という言葉だった。
運転するようになってから今日まで、私はこの言葉を忘れたことは無い。「それまでの幸せが一瞬で全て無くなってしまう」、この言葉を聞いた時は、はっとした。聞けば当たり前の事に思えるが、こんなに実感を伴って響く言葉は他に無い。父が私に話してくれたように、私も子供に同じように話をしている。
一九九〇年代中頃