釣り

小学二年の時、父と釣りを始めた。父は前々から私が二年生になったら釣りを教えようと思っていたようだった。

父も釣りは初めてで、私と父は近所の釣具屋に行き、あれこれ教えてもらいながら初心者でも使い易い釣り具を揃えた。

初めて行った釣り場は家から近くの河口だった。その日は天気は良かったが、風が強く吹いており波が高かった。ジェット天秤というおもりに仕掛けを付け、青イソメという餌を釣針に刺して竿とリールをタイミングよく使って海に投げるのだが、私はまだ投げることができなかったので、父が投げてくれた。

竿を動かしながらリールを巻き、餌が生きているかのように見せて魚を誘うことを繰り返した。しかし、私は何度も糸を絡ませてしまい、父がそれをほどいてくれたが、糸の絡まりを直している時間の方が長かった。結局、その日は何も釣る事はできなかったが、釣りに行ったこと自体でとても満足だった。

その日は波も荒く、他の釣り人もあまり釣れてはおらず、釣れていたとしても草フグばかりだった。フグは餌を呑み込んでしまい、釣り針が折れてしまうため、一般的に嫌われていた。

その日以来、私は釣りに夢中になり、朝、学校に行く準備を終えた後の十~十五分で釣りの本を夢中になって読んだり、学校から帰ってきた後も暇さえあれば釣りのことばかり考えていた。本とはいっても、釣りキチ三平が書いてあるような漫画風のものだった。平日に本で研究して、日曜日にそれまでに考えた仕掛けを試してみるということを繰り返した。

学校では嫌な事ばかりだったが、日曜日になれば大好きな釣りに行けると思って耐えた。そして、釣りを終えた日曜日の帰り道は、次の日から学校にいかなければならない現実が辛かった。それでも、次の日曜日になればまた釣りに行けるのだから、と気を紛らわせた。

父は、釣りをしている時は会社や仕事のことを忘れることができる、と言っていた。それは私も同じで、竿先を見つめ魚のアタリを今か今かと無心で待っている時は、嫌な学校のことは忘れることができた。そんな日曜日は中学生になっても続いた。高校生以降は、釣りが趣味となっていた父にたまに付き合う程度だったが釣りを楽しんだ。

一九七八年