惨めだったあの時

日々の生活では、やはりお金が無かったことが何と言っても辛かった。

近所の奥さん方から、時折、繁華街の市場へ買い物に誘われたが、母はお金が無くて行けなかった。お金が無いとは言えるはずも無く、様々な理由を付けて断っていたという。

母は「そのことが惨めで本当に辛かった、近所の奥さん方はきっと自分のことを変人だと思っていた」と今でも悔しさを滲ませながら話す。奥さん方は、母を変わった人とでも思っていたのだろうが、実際には行きたくてもお金が無くて行けなかったのだ。

古い時代の片田舎で、新参者だった上に付き合いが悪いと思われた母の立場は、一層悪化したに違いない。父はそのような母の気持ちを汲み取ることなどあり得なかった。何度となく逃げ出そうと思ったが、たとえ逃げたとしても行く当ても無く、その時の母にはどうすることもできなかった。母に残された選択肢はただ耐えることだけだった。

時は、所得倍増計画が決定された一九六〇年代初めだった。