大学に合格してから間もなく、副担任だった女性の先生から電話があった。
自宅浪人をした生徒は他におらず、私がどのような考えで勉強を進めていたのか話を聞かせて欲しいとのことだった。その先生には高校一年の息子さんがおり、今後の息子の受験のためにも是非参考にさせて欲しいということだった。
副担任の先生は、普段、関わることが少ないが、担任の先生が不在の時などに生徒の面倒を見てくれた。私は、その先生と話をほとんどしたことがなかった。
あれはまだ肌寒さが残ってはいたが、春を感じさせる天気の良い土曜日だった。高校前にある食堂でお昼をその先生と食べることになった。バドミントンの夏合宿でもお世話になった定食屋だった。
私は自転車で高校に行き、職員室で先生と会ってからその食道に入った。テーブルに着くと、先生は、私が予備校に通わずにどのように過ごし合格することができたのか、聞きたいとのことだった。
私は、自分の感じたことなどを思うがままに話した。例えば、予備校は現役の時に夏期講習等で受けてみたが、授業料が高く受験テクニックばかりのやり方は自分に向かないと思った。そのためZ会の通信教育を自分でやることにした。自分のやりたい勉強を自分だけの力でやろうとしないのなら初めから止めた方がよい、などぶっきらぼうに話した気がする。
それ以外にも現役の時にはやりたい事が見つからず、何のために大学に行こうとしているのか分からなくなり、長く悩んだことなど様々な話をした。
食事を済ませると、私は挨拶してから学校の駐輪場に行き、先生は職員室に戻って行った。春の心地よい季節のなか、私は解放感に満たされながら慣れ親しんだ道を自転車で走った。大きな橋から望む海の景色がいつにも増して美しく見えた。
一九九〇年三月