その時の私

大学一年生の六月頃だった。高校時代のバドミントン部員だった一人と会う機会があった。上京してから地元の友人と会うのはそれが初めてで、彼とは違う大学だったが共に東京に住んでいた。

夕方遅くに彼の下宿先に行くことになり、最寄り駅に着いた後、私達は周辺の定食屋で食事を済ませた。街を散歩した後に下宿先に行き、他愛も無い話をしているうちに夜は更けていった。

その時の私は、過去の自分を消し去りたい、誰も自分を知らない場所に行きたいと思っていた。そのため、昔の知り合いに会うことは内心、気が進まなかった。

そんな複雑な気持ちを持ちながらも、一人暮らしを始めたばかりで、寂しさを感じる時がないと言えば嘘だった。昔の知り合いと連絡が取れるというのはそれなりに嬉しさもあり、矛盾した感情を心に抱いてた。

翌日、地元でバドミントンをやっていた同学年で他の女子高に通っていた子と三人で会う事になっていた。会うといってもその子にも予定があって少し話せる時間があるくらいだった。その女子生徒はバドミントンが上手く綺麗な子で地元では少し知られた存在だった。なぜ彼がその子と知り合いなのか分からなかったが、彼は私と違い人との交流関係を築くことが上手かった。

待ち合わせ場所は渋谷で、合流したあとは三人でしばらく歩きながら話をする程度の時間しかなかった。その彼女もバドミントンはやめており、短大で学ぶため上京したようだった。何を話したのかほとんど覚えておらず、その後、その子と会う事はもう無かった。今であれば連絡を取り合う事は容易であるが、電話しかないその当時、連絡先を維持することは簡単ではなかった。

あの時の私はなぜ人との繋がりを避けていたのだろうか。高校のバドミントンOB会が上京した年の夏に地元のホテルで予定されていた。出席して欲しいと五、六歳上の良く知っている先輩から電話があったが、行きたくなかった私は申し訳ないと思いつつも欠席の旨を伝えた。また、中学・高校のバドミントンの先輩と電話で話したことがあったが、その後、連絡を取り合う事はなかった。

私は、過去の未熟な自分を恥ずかしく思っており、そのような自分を誰も知らない世界に行きたいと思っていたのかもしれない。私は、不要なプライドを捨てることのできない幼さが残る人間だったに違いない。

その時は、数学を極めたい、そのためにここにいると純粋に思っていた。それ以外の事を考えるには、私は不器用で若すぎたのかもしれない。

一九九〇年六月