そして、受験当日

試験当日は、早めにホテルを出て、事前に確認した道を緊張しながらゆっくりと歩き、受験会場に入った。

数学科は、定員一二〇名で受験者数は数千に達していた。補欠を多めに取るため実際の合格人数はもう少し多いが、いずれにしても狭き門だった。試験は数学二つと英語だった。会場を見渡すと、受験生がずらりと縦、横に並んで座っていた。この縦一列の中で一人程度しか合格できないのかと思うと緊張感が高まったが、その時の私は無心で集中力を保てていた。

試験が開始され、一回目の数学の試験問題に目を通した時、私は「もらった!」と心の中で叫んだ。どの問題も方針を立てることができる問題で、私は余裕を持って解くことができた。午後の二回目の数学の試験は、より難易度が高く試験時間も長時間に亘った。私は、一回目の試験が上手く行ったことで、その試験にも落ち着いて臨むことができ、ほとんど解くことが出来た。

試験が終わった頃には夕方になっており、会場から出て歩道を歩き始めると母が待っていた。母は大量の受験生が流れ出てきたのを見て「これだけの人数の中から合格するというのは容易でないね」と驚きながら言っていた。警察が車道の一部を歩道にするために交通整理をしなければらならい程だった。

帰る受験生の群れの中に混じって、私は母と歩いたが、歩き始めた後の記憶は残っていない。自分の力を余すことなく発揮することができ、悔いの残らない試験となったことに安堵していたのだろう。

一九九〇年二月