高校最後の夏休みに入っており、その日は英語塾の日でいつになく授業後の質問が長引き、塾を出た時には二十三時近くになっていた。夜遅い時間となっても暑い日だった。自転車で家の近くまで来た時に一人の女性が大通り沿いに立っている姿が目に入った。
田舎では大通りでも夜中は人通りが無く、通る車も少なかった。治安の良い場所ではあったが不用心だなと思いながら近くを通り過ぎようとした時、ふと目が合うと、同じ中学に通っていた生徒だった。社会人女性にしか見えなかったため、近くをすれ違うまで全く気が付かなかった。
その生徒とは、中学の時、クラスは違ったが、塾で席が隣だったので良く知っていた。中学二年の時に転校して来た、雰囲気のある子だった。とても落ち着いており他の女子生徒より大人っぽかった。塾から帰る時は、家が比較的近くだったこともあり、他の友達と三人でよくいっしょに歩いて帰ったものだった。
近所だったが、中学卒業後は一度も見かけたことが無かったのでとても驚いた。私は自転車を止め、驚きながら声を掛けた。その子も驚きながら、これから遊びに行く予定で友達の車を待っている、と言っていた。私が塾帰りだと話すと、その子は、大学受験というものが自分とは全く関係の無い未知の世界という感じで話していた。
私は話を聞きながら、高校一年生の冬、バイトをしていた女子生徒と会った時に感じた寂しさを思い出していた。この時も中学時代から差ほど変わらない自分は、時間が止まっている世界に取り残されているように感じていた。
その子と会ったのはそれが最後で、その後、いつの間にか引っ越しており、会うことはもう無かった。中学二年の時にふと現れて気が付けばもういない、そんな不思議な子だった。高校三年夏休みの淡い想い出となっている。
一九八八年夏