高校の隣にとても美味しい小さな中華料理店があった。店主のおじさんと奥さん二人でやっている店だった。二人とも感じの良い人達だった。
店内は、三、四人座れるカウンターと四人掛けのテーブルが三つ、奥に四人座れる小さな座敷があった。昼時になるといつも高校生で溢れていた。高校に入学した後、先輩に連れられ初めて食べたチャーハンは驚くほど美味しく、しかもとても安かった。三百円くらいで本当に美味しいチャーハンをお腹いっぱい食べることができた。
中でも天津丼は幻のメニューと呼ばれていた。値段は六百円以上して少し高めではあったが、これは絶品だった。忙しい時は作ってもらうことが出来ず、滅多に食べることができないメニューだったのでそんな名前が付いていた。未だにあの天津丼より美味しいと思う中華料理に出会ったことはない。他にもギョーザ、あんかけ焼きそば、硬焼きそば、野菜うま煮丼などどれも本当に美味しかった。
私が三年生の頃、おじさんは体調を崩して店を閉ている時が多くなった。高血圧が悪くなったと奥さんが話てくれたことがあったが、私が卒業したあと間もなくして他界したと聞いた時はとてもショックだった。お店もそのあと店仕舞いした。私の高校は、この中華料理店と共にあると言っても良いくらい、生徒にとっては無くてはならない店だった。生徒のみならず先生方も皆食べに来ていた。おじさんの料理をもう二度と食べることができないのかと思うと悲しく寂しい。
あの天津丼は、本当の意味で幻の料理となってしまったが、私の大切な想い出として記憶の中に存在し続けている。
一九八六年五月