小学二年の時に転校してきた女の子がいた。当時の田舎では、地域ごとに決まっていた校区の家庭はほとんどがその地域に根付いた生活をしており、格差が少なく均質だった。そのため、転校してくる生徒は年に一人いるかどうかだった。
子供達はみな苗字を呼び捨てにして呼び合うのが普通だったが、その女の子は、男の子にも女の子にも「さん」付けで呼んでいた。「さん」付けは女の子に対して使うもの、という固定観念が子供達の間では一般的だったが、その子が使うとなぜか自然だった。
その子はスイミングスクールに通っていたので水泳がとても上手かった。私の地域では、スイミングスクールや学習塾に通っている子はほとんどいなかった。水泳授業中、その子がプールに入り、横向きの状態から水しぶきをたてることなくイルカのように水中に潜っていく姿を見た時は、その美しさに感動した。そして、水と一体化して流れるように泳ぐ姿は他の子供達とはまるで違っていた。
その光景を目にした時から、私は暇さえあればその子のことを考えるようになっていた。今思えばそれが初恋だったのかもしれない。結局、その子とは、仲良くなったり話をよくしたりすることは無かった。小学三年のクラス替えで同じクラスではなくなり、小学六年の時にその子は他の学校に転校していった。
今でもプールサイドに生徒が座って先生の話を聞いている光景や、あの女の子がイルカのように泳いでいた姿を懐かしく思い出す。
一九七八年